NY建築クロニクル1

WTC倒れてTWC建つ
ーーコロンバス・サークル


リンカーン・センターのそばにある映画館で、本年のアカデミー賞にもノミネートされたドキュメンタリー「My Architect」を観た。20世紀半ばのモダーン建築の巨匠のひとりとされているルイス・カーン(1901〜74)の伝記映画であるが、ただ客観的に生い立ちをなぞったものではない。

カーンには妻と娘の他に2人の内縁の妻がいて、それぞれとの間に子供を1人ずつもうけていた。この映画は、カーンが62歳の時に生まれた、3人目の内妻の息子ナタニエルが、縁の薄かった亡き父の魂を求めて、コネティカット州、テキサス州、カリフォルニア州、インド、イスラエル、バングラデシュなどに父が建てた代表的建築物とゆかりの人々を訪ねる物語なのである。

4歳の時にエストニアから移住してきたカーンはフィラデルフィア在住だった。一時はフィラデルフィア市内の大都市計画の構想をねったが、市の担当者と折り合いがつかず、彼地では、大学の一校舎しか建てなかった。

建築家はいろいろな建築構想を練るが、実際の建築計画は資金ぐり、施工主との意見の食い違いなど、さまざまな要因で流産することが多い。いわば、現在、我々が目にする建造物は障害を乗り越えて竣工することのできた建築家の子供のようなものである。

しかも、運の悪い建造物には、生身の人間と同様、突然の死(破壊)がやってくる。その最悪の例のひとつがワールドトレードセンター(WTC)だろう。狭いがゆえに土地の利用価値が高いマンハッタンの歴史は、破壊されては建てられるビル弱肉強食の歴史でもあるのだ。

空にそびえるガラス張りの新ツインタワー

この2月、あのテロ以来初めての巨大建造物の竣工といわれた、タイム・ワーナー・センター(TWC)がオープンした。ツインタワーが倒壊した少し後、ニューヨーク・タイムズには、マンハッタン内のツインタワーについての記事が載ったが、TWCはまだ着工されていない頃から期待の星だった。2002年初めから建てられ始め、タワー建築現場にはいつも大きな星条旗が掲げられていた。

場所はコロンバス・サークルといわれる、セントラルパークの南西の角。コロンブスの石像を載せた塔がそびえている所だ。

このビルを建てるために瓦礫の山と化したのは、1957年建造のコンベンション会場「コロセウム」。ローマのコロセウムには似てもにつかなかったが、サークルのカーブに平行した窓のないグレーの建物が目立っていた。

建った当初は、アメリカ一の床面積を誇る大会場ともてはやされたものの、一流コンベンション会場としての名声は、1986年にミッドタウンの最西端にできたジェイコブ・ジャーヴィツ・センター(I・ミン・ペイ作)の完成によって消えた。その後も、ジョブフェアやアンティーク・ショーの会場として利用されてはいたが、後期モダーン建築の悪い例としての外観が象徴するように、時代から取り残されていた。

TWCはよく見ると左右非対称なガラス張りのビル。タワーの先端は平たい平行四辺形をしており、まるで巨大なカッターナイフが空からやってくるテロリストを威嚇するために立っているかのようだ。ブロードウェイを挟んで建つ、ミーズ風のシンプルな柱のようなトランプ・タワーとは赴きが違う。これもポストモダーンなのか。

時代に取り残され寂しく建つ
旧ギャラリー・オブ・モダーン・アート

映画を見終わって夕暮れのブロードウェイをコロンバス・サークルのほうに歩いた。まっすぐ前方にレースのような繊細さを湛えた白いビルが浮き上がって見える。周囲は、ガラス張りの高層ビルか、コルビュジエ風に窓とべランダがぎっしり並ぶ集合住宅ビルなため、このアーチの反復をモチーフとした華奢な旧・ギャラリー・オブ・モダーン・アートは目立つ。

同時代建築のコロセウムと共に、弧を描くコロンバス・サークルを囲んでいた頃は、そこにアナクロなモダーン建築のかもし出すムードがあった。しかし今、それは過去のものとなり、このビルだけが周囲のビルの描く直線や直角に圧倒されながら孤独に建っている。
ポストモダーンの先駆けといわれ、かの「Wallpaper」誌からは、「NYで最もヒップなビル」とのお墨付きをもらったというこのビルも、今、破壊とはいわずとも、大規模な改築前夜の状態である。その証拠にWTCの下部を思い出させなくもないロリポップ状の梁を、足場が腰蓑のように隠している。

このビルを1964年に建てたのは、当時ライバルと目されたMoMAも手がけたエドワード・ストーン。当初は美術を展示していたが、やがて市文化事業局のオフィスになってしまった。MoMAに負けたこのビルは、現在改築中のMoMAの向かい側に建つ、Museum of Arts & Designが狙っているのだ。べネツィア風の外観は残すのか。

コロンバス・サークルの、逝ったビルと生まれたばかりのビル、そしてこれから変容しようとする古いビルの姿。それは、ニューヨークの歴史の一ページを象徴している。

ビルにも運のいいビル��運の悪いビルがある。ルイス・カーンがバングラデシュに建てた国会議事堂の中で、地元の建築家は涙しながら、「カーンは、世界で最も貧しい国に民主主義を施行させるための場所を造ってくれた」と語った。こんな風にいわれる建築家とその建造物は幸せである。(by 八巻由利子)

http://www.shopsatcolumbuscircle.com/
(2004年4月現在ホームページのみ)
http://www.myarchitectfilm.com/


映画「My Architect」より
タイム・ワーナー・センター
photo: Fumiko Nozawa
旧ギャラリー・オブ・モダーン・アート photo: Fumiko Nozawa