女性の「心の問題」をアートで示す
パク・ヨンスク写真展(大阪)


日韓の文化交流が盛んである。先回はテレサ・ハッキョン・チャを紹介したが、フェミニスト芸術においてのそれは、単なる共同制作とか作品を並べてみせるといった交流の定型を越えた。日本による植民地支配の歴史やグローバリゼーションの問題を踏まえながら、性差別を見据え、未来を切り開こうとする流れを形作っている。

この1月末から2月初めにかけて、韓国のフェミニスト写真家パク・ヨンスクが来日した。彼女は「マッド・ウィメン・プロジェクト」という写真シリーズで、自分の周りのフェミニストたちをモデルに女性たちの日常に隠された逸脱・狂気をイメージ化してきた。

今回は、大阪アーツ・アポリアの企画で日本での「マッド・ウィメン・プロジェクト」の撮影を行うために来日。それに伴って、彼女の作品の展示が1月19日から2月7日まで大阪市のサード・ギャラリー・アヤで展示された。

へたった歯磨きのチューブを2本握りしめながら、寝間着姿で立ちつくす女。鯖がごろごろ転がる調理台を前に、出刃包丁を握りしめながらあらぬ方を見上げる女。幼児が手前に転がり、家事の道具が床に散乱し、その中央に置かれた椅子からずり落ちそうになりながらこちらを向いている女性。彼女たちの身につけているものや場所の詳細から、彼女たちの日常が色濃く匂う。女が日々の生活の中でふっと我に帰る孤立した瞬間を、韓国のフェミニストたちが演じている。

パクは女性のごく普通だと思われている日常の裂け目を写真で捉える。直接的ドキュメントではなく、モデルになる女性達に演じさせるという仕掛けによって「狂気」を対象化している。そのことによって、その瞬間は撮影しているパクのものでもあり、モデルの女性たちのものでもあり、またそれを見る女性たちのものにもなる。写真は生々しく強力だが、悲惨を感じさせたり、同情を誘うものではない。

「精神病院で男の医者にすがるようにしている女性患者の姿を目にしたが、その女性が離婚とそれに伴う子供の養育権喪失の中で、精神科に入院するようになったという経緯を知った。これがこのプロジェクトのきっかけ」とパクはアーティスト・トークで語った。

男性中心社会で精神のバランスを崩し、それをまた科学という名のもとに医者という男性権威によって「狂気」と診断される。家庭という密室から医療の密室へと問題は闇から闇へと葬られる。

現代では規範からはずれることは、医学や心理学によってあっというまに異常なものとして、個人の、それも心理や医療の問題に帰されてしまう。治療の対象にされ、精神薬やセラピーによってコントロールされるメカニズムに組み込まれる。「狂気」とはいったいなにかをクリティカルに見ること、社会批評することはますます困難になっている。

そんな中「マッド・ウィメン・プロジェクト」は「狂気」が特殊な人の問題ではなく、あらゆる人間の身近にあることを露わにする。「癒し」や「セラピー」が横行する世の中に女性の「心の問題」をアートという形で社会批評し問い直すパクの写真は、強烈で、すがすがしいものであった。

パクの日本でのプロジェクトは、この6月26日から7月17日に東京・恵比寿ARTで開かれる「ボーダーライン・ケース」という日韓フェミニストによるアート展で発表される。(by 栗原奈名子)

関連サイト
マッド・ウィメン
http://arts-center.gr.jp/aporia/co-host/madwomen/index.html
サード・ギャラリー・アヤ
http://www.threeweb.ad.jp/~ayay/artists/park_youngsook/index.html

写真家バク・ヨンスク。撮影/安田和代