今月のン大ニュース (2003年10月) back

1. エドワード・サイード死去 (1935〜2003)

2003年9月24日、コロンビア大学比較文学の教授、エドワード・サイードが11年間闘ってきた白血病により、ついに亡くなった。享年67歳。サイードは単なる文学の教授ではなく、イギリスの支配下のエルサレム生まれのキリスト教系パレスチナ人として、パレスチナ側から世界を語る数少ないアメリカ在住の知識人として世界的に知られていた。1964年、ジョセフ・コンラッド研究でハーバード大学より博士号授与。翌年よりコロンビア大学で教えていた。

日本では朝日新聞などがその死を大きく報道したが、ニューヨークでは比較的小さかった。パレスチナの声を代表する存在として扱われてきたサイードに対し、同時多発テロ後の風当たりが強くなったためだろう。例えば、APの訃報は、彼が2000年にイスラエルでレバノン国境沿いの見張り小屋に石を投げて物議を醸したことに言及。また、死の直後、「ニューヨーク・タイムズ」ウエブ版の書評欄に乗った写真も、いつものダンディな写真ではなく、顔が一面ひげだらけで、あたかもアラブの活動家を彷彿させるものであった。

しかし、実際のサイードは、自らもプロ級のピアニストである立場から、イスラエルのピアニスト兼指揮者ダニエル・バレンボイムと共に、イスラエルとアラブの若者たちが演奏するコンサートを開催するといった双方の橋渡しも行っていた。

サイードは、中東問題に限らず、その著作「オリエンタリズム」(訳書は平凡社刊)と「文化と帝国主義」(訳書はみすず書店刊)で、文学やメディアを素材に西洋と東洋の関係を解き明かし、世界を広い視野で見ようという人々に多くの示唆を与えた点でも重要な存在である。特に、サイードと同じく異郷に生きるダイアスポラの人々や、自分と異なるグループに支配されている地に住む人々にとって、この2冊は自分と「他者」について考えるために、なくてはならぬ書物である。(by BWA)


関連サイト
http://home.att.ne.jp/sun/RUR55/home.html
サイードの書籍の翻訳者が主宰するサイト(日本語)
http://www.alquds.net/edward/
サイード関連サイトをまとめたサイト
http://www.emory.edu/ENGLISH/Bahri/Orientalism.html
オリエンタリズムについて
http://www.ezipangu.org
ジパングのサイトに掲載した同時多発テロに関するサイードの記事

2. イスラエル、パレスチナ45人のリアル・ライフ「正直な気持 ちを話そう」出版

著者:八木健次
たちばな出版 定価=本体1,500円

生きる力が伝わってくる。これは、貴重な1冊だ。
紙面から語りかけてくるのは、イスラエルの紛争の渦中で生きるイスラエル人とパレスチナ人の45人の若者。仕掛けた著者は、写真家の八木健次。2002年4月から7月中旬にかけて報道写真家としてイスラエルに滞在した著者が現地で撮影した若者たちのポートレイト写真と彼等の生の言葉が、彼等の生きる場であり紛争の場でもある事件現場写真や街頭風景写真の間にちりばめられている。

紛争の中で命を落としていく若者、戦う若者の姿も登場する。だが、著者の思いは、そこに留まらない。暴力と危険のさなかにありながら、ごく普通の若者としてそれぞれの夢を追い、人生を楽しみながら、暮らしてゆく若者たち。そんな彼等の素顔を気張りなくおしゃれに撮影し、彼等のさまざまに異なる立場や考えを超えてひとりひとりの命に声援を送る。そのあたたかい視点が、この本の持ち味だ。

表紙からきかん気そうな目でこちらを見すえてくる少年は、ユセフ・カティブという名の14才の中学生。パレスチナ人のユセフは、「7歳のときから投石を始めて、これまで25回撃たれた」。ユセフが、この日食べた食事は「ファラフェル(コロッケのサンドイッチ)」。今、したいことは、「武器をつくる」こと。一方、将来はモデル志望のイスラエル人女性兵士カレン・ベンイシャイがいましたいこと、ほしいものは、「ショッピング、笑うこと、静寂」。

相手の目を見つめて話せ。アメリカに住み始める日本人が最初にたたきこまれるのが、これ。この本を繰りながら、なぜか、そのことを思い起こした。目を見つめることで、ひとは相手と平等な立場に立ち、相手の思いに真正面から向き合うことを余儀なくされる。相手もまた、あなたという人間を知ろうと真正面からあなたを見据える。「正直な気持ちを話そう」では、ユセフ少年をはじめ45人の若者が、あなたの目を見つめて正直な思いを語りかけてくる。その目を見つめかえしてこの本を手にする時、私達はもう高みの見物人ではいられない。(by 宵っぱり)

3. ニューヨーク在住アジア系アメリカ人作家の展覧会

展覧会:Fresh Talk Revisited
エイジアン・アメリカン・アートのアンソロジー本「Fresh Talk/Daring Gazes」(Elaine H. Kim, Margo MacHida, Sharon Mizota著、University of California Press刊、2003年、$55.00) の出版記念展覧会。

アンソロジーに選出されたニューヨーク在住の以下の8人のアーティストが参加。Tomie Arai, Ken Chu, Michael Joo, Shahzia Sikander, Do-Ho Suh, MitsuoToshida, Lynne Yamamoto, Zarina.「この展覧会で見られる作品は、アジア系アメリカ人の戦争、移民、性、通婚、社会的運動などの経験を概念的、歴史的、哲学的に取らえ、紋切型的に実体化されたアジア系アメリカ人のアイデンティティーを乗り越えている。」ーー展覧会パンフレットより。(by リキ)

展覧会会場:
A/P/A Studies Gallery(ニューヨーク大学内)
269 Mercer Street, Suite 609
Monday-Friday 10am-5pm
Tel 212-992-9653
www.apa.nyu.edu
2004年1年月9日まで。

*Book Launch & Discussion
日時:11月7日(金曜日)午後7時から9時まで。
場所:Kimball Lounge, 246 Greene Street, 1st Floor

4. ソフィア・コッポラ監督の新作
「ロスト・イン・トランスレーション」

映画「Lost in Translation」
(日本では2004年2月に公開予定)

このソフィ・コッポラの2作目は、東京を舞台にした年の差があるアメリカ人男女の淡い恋を描いている。男は、サントリーのCMに出て莫大なギャラをもらう特権的出稼ぎに来た下り坂の映画スター。女は、バンド撮影をするフォトグラファーにつき添ってきた若い妻。この二人が西新宿の高層ホテルに同時に泊まっていて・・・という話である。

ロケはすべて東京で行われた。日本人として気になるのは、日本の描き方だ。思ったよりもステレオタイプではなかった。神社仏閣、風呂、華道、富士山、不思議な食べ物としてのしゃぶしゃぶは出てくる。だが、1950年代の「サヨナラ」の時代とは隔たっている。日本に来たGIがエキゾチックな日本人女性に恋をして・・・という設定はもう古い。新宿や渋谷の夜のシーンがふんだんに出てくるが、二人と一緒にクラブやカラオケ・ボックスに行って遊ぶのは、遅れた国の原住民ではなくて、彼らと同じように物質主義を謳歌する現代の日本人だ。


日本語が若干出てくるが英語字幕は一切なし。日本語を解さないアメリカ人たちは、主人公ボブ・ハリスと共にロスト・イン・トランスレーション気分を共有できる。字幕付きの映画=外国語映画を嫌うアメリカ人としては、居心地の悪い気分に陥る瞬間だろう(居心地の悪い人が多かったからか、「ニューヨーク・タイムズ」は公開直後、特に日本語のセリフが長かったシーンの英訳をスタイル欄に掲載した)。これが日本で上映されると、日本語字幕だらけになる。翻訳文化の中で生きている日本人には、ロスト・イン・トランスレーションはあってはいけない状態なのだ。

だから、日本にいる日本人には、言語面ではこの映画を楽しめないかもしれない。でも、異郷での寂しさには共感できるだろう。都会に出てきた地方出身者、行きたくない場所に赴任させられた経験のある
会社員やその家族など。

アメリカ人が恋に落ちる舞台は東京でなくても、香港でも北京でもパリでもよかったのかもしれない。でも、映像は小津の映画を思わせるほどもの静かで日本っぽい。二人のかすかな恋心を示すには、日本の微妙さが重要なバックドロップだったとも考えられる。アカデミー賞候補の呼び声もかかるビル・マレーの演技にも、日本のフォーマルで静かな空気が影響を及ぼしたことだろう。

世界的に有名な父のおかげで、監督はアメリカ人には珍しく国際感覚を身につけた。だから、父が過去にCMに出演し、自分も映画のプロモーションで訪れた国を舞台に選んだのだ。国境を越えるとはどういうことかを考えさせられる作品でもある。(by BWA)

関連サイト
www.lost-in-translation.com
www.v2records.co.jp/special/o011_sc/030804/movie.html


5. スコセッシ制作のTVミニ・シリーズ
「ザ・ブルース」

9月末、公共放送PBSは、ブルースに関するフィルムを7夜に渡り放映。マーティン・スコセッシがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、彼を含む、7人のハリウッドで活躍する映画監督たちが、「ブルースがごく限られた民衆音楽から普遍的な手法になった経緯」を大テーマに、それぞれのスタイルで描いたドキュメンタリーである。

以下が各作品のタイトルと監督名。
Feel Like Going Home by Martin Scorsese
(黒人ミュージシャン、コーリー・ハリスがミシシッピと西アフリカにブルースのルーツを探る)
The Soul of a Man by Wim Wenders
(知られざる3人のブルース・ミュージシャンの足跡を探るヴェンダース)
The Road to Memphis by Richard Pearce
(ブルースのメッカ、メンフィスにゆかりのあるミュージシャンをB・Bキングを中心に追う)
Warming by the Devil's Fire by Charles Burnett
(おじを訪ねて南部に遊びにきた黒人少年が目の当たりにする悪魔の音楽ブルースと神聖な音楽ゴスペルの相克) これのみフィーチャー
Godfathers and Sons by Marc Levin
(シカゴのチェス・レーベルのオーナーが語るブルースの過去、チャック・Dが語るヒップホップとの融合)
Red, White & Blues by Mike Figgis
(ロニー・ドネガンからウィンウッドまで往年のブリティッシュ・ミュージシャンが熱くブルース体験を語る)
Piano Blues by Clint Eastwood
(イーストウッドがレイ・チャールズやドクター・ジョンらブルース・ピアニストを訪問)

いずれも、サンハウス、マディー・ウォーターズ、ウィリー・ディクソン、サニーボーイ・ウィリアムソンら過去のブルース・ミュージシャンの映像や、ボニー・レイット、アビー・リンカーン、ルー・リード、ヴァーノン・リード、トム・ジョーンズらによるカバーで、演奏シーンがふんだんに入る。

大テーマでもわかるとおり、これは、ブルースの創造主である黒人の視点で描いたシリーズではない。4夜目のチャールズ・バーネットの作品をぬかして、いかにアメリカ内外の白人がブルースを愛好し育ててきたかという記録である。だからなのか、よく出てきたB・Bキングが、フィルモア・ウエストで初公演した時に白人ばかりの聴衆によって初めてスタンディング・オベイションを体験してうれしかったとか、イギリスのミュージシャンがブルースを好んでくれてありがたかった、というコメントで、黒人ミュージシャンの白人への感謝が強調されていた。

黒人の批評家スタンリー・クラウチは、放映直後にテレビでこのシリーズへの感想をきかれて、チャールズ・バーネットの作品以外は、ニグロから無視されたニグロの話だった、と述べた。ミュージシャンとして成功する人はほんのひと握りである。まして、過酷な状況にいた過去の黒人の場合、チャンスは少なかったはずだ。きっと足の引っ張り合いがあっただろう。

民族誌的関心からブルースを録音することに熱心だった人々、資本をもっている白人のレコード・レーベル、パブリシティを担当するマネジャーやメディア、そして娯楽に使う金をもっている白人ファンがいなければ、ブルースは今のように世界的に知られることなく深南部に葬り去られてしまったことだろう。結局はパワーの問題である。

表面的には人種統合の美しさをたたえたような番組で、かえってそこに横たわる溝の深さを感じてしまった。(by BWA)

関連サイト
http://www.pbs.org/theblues/index.html
番組のVHSやサウンドトラックのCD、書籍はアマゾンで販売中。


6. 第1回写真ビデオ・トリエンナーレ

国際写真センターでは、9月13日〜11月30日までアメリカ初の写真とビデオ専門のトリエンナーレを開催中。今回のタイトルは「Strangers」。同時多発テロの後、外国と外国人の存在を意識し始めたアメリカ人らしい企画である。

北中米、ヨーロッパ、アジア、中東、オセアニア、南アフリカからの40人の現代作家による、社会性を帯びた作品が並ぶ。チェルシーのギャラリー街で見られる、自己満足的な作品は少なく、移民、グローバライゼーション、ポストコロリアリズム、言語、死などといったテーマで観る者に訴えかけてくる。(by BWA)

International Center of Photography
1133 Avenue of the Americas @ 43rd St.
New York, NY 10036
Ph 212.857.0000
Tu-Th 10AM - 5PM $10.00 Gen. Admission
F 10AM - 8PM
Sat + Sun 10AM-6PM Closed Mondays
http://www.icp.org


7. 香港在住作家の小説
「軒尼詩道(トラムロード)を駆け抜けて」

桶本乃梨子著 深夜業書社 2003年 定価=本体1,800円

香港の街に住む3人の外国人(日本人、韓国人、中国本土人)少女の触れ合いと、自己発見の物語。ニューヨークと同様、多民族がうごめく香港で、少女たちが体験する人間関係や現実に翻弄される運命を描く。外国に住む日本人にとって切実な問いかけがあり、日本に住む日本人にも読まれるべき日本人ディアスポラ文学作品の秀作。(by リキ)

8. ワシントンDCで行われる反戦デモ

「イラクからアメリカ兵士撤退」の要求を掲げた反戦デモのマーチが10月25日、土曜日、ワシントンDCで行われます。(by リキ)

集合場所:シビックセンタ−(Grove & Larkin Streets)
集合時間:10月25日(土)、11:00 am

詳しい情報は、www.internationalanswer.org

said
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yagi front
yagi back
fresh
toshida
トシダ・ミツ夫「国家ダブル」1993年。紙、インク、グワッシュ。「僕の作品は基本的に様々な写真、映像の引用をタブロー化した作品です。個人的、集合的(外部化された)記憶を再文脈化することで、日本、アメリカの帝国主義批判、バイカルチャラル問題提起を試みています。ここに載った作品はドローイング作品で、国家間のバイカルチャラルな力学を図象化したもの。」ーートシダ
lost main
lost girl
lost duo
blues
factory
Yto Barrada
Usine 1, Tanger (Factory 1, Tangier), 1998
Courtesy of Galerie Polaris, Paris
faces
Shirin Neshat
Tooba Series, 2002
Courtesy of Barbara Gladstone Gallery, New York
tram