アンチ・アメリカ展?

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2001年の同時多発テロで変わったこと、それはアメリカ人が世界を意識するようになったことだ。特に「アメリカは世界から嫌われている」という意識は一般的で、開き直ってテレビトークショーのジョークにも使われるほどだ。

そんな思潮を反映したタイムリーな美術展「American Effect(アメリカの影響)」展が、この夏、ニューヨークのホイットニー美術館で開催され、話題となった。冷戦後、アメリカが世界に君臨した1990年を起点に今年までに30カ国47人のアーティストと3つの集団が制作した、アメリカをイメージする作品を集めたグループ展である。

アートはときとして愛国心の高揚に利用されるものだ。ホイットニー美術館の正式名称はWhitney Museum of American Art。まだアメリカがヨーロッパのアートに圧倒されていた1931年、生存するアメリカ人作家の作品を見せる初の美術館として開館し、翌年から、ホイットニー・ビエンナーレをはじめ、アメリカ美術の発展に貢献してきた。

そんな右派の美術館が、あえてアメリカ人以外のアーティストに焦点を当て、しかもアメリカ批判が大半という展覧会を開いたのは画期的なことだ。おかげで保守層からはWhitney Museum of Anti-American Artと批判された。

「入院」するスーパーマン

会場入り口で目立つのは、にこやかに笑うジュリアーニ前ニューヨーク市長の半身像。題して「自由よ永遠に」。ミソは、画面下部の左右に描かれた象の糞だ。4年前、ブルックリン美術館で開催された展覧会に出品されたクリス・オフィリ作の「マリア像」に象の糞が用いられていたのを見たジュリアーニが「キリスト教への冒涜だ」と憤慨。この美術館への市からの援助を中止すると言い出して裁判沙汰になった。中国人ゾウ・ティエハイによるこの肖像画は、レーニンや毛沢東などの共産主義国家の指導者の銅像に似せてある。

表現の自由を妨害しようとしたジュリアーニを揶揄しているので、ちょっとしたローカルネタとしてテレビやタブロイド紙で報道され、この展覧会の始まりを伝えるのに格好のパブリシティとなった。
 
フランス人ジル・バルビエールによるインスタレーション「ナーシング・ホーム2002」も、わかりやすいためかなり取り上げられた。キャプテン・アメリカ、ワンダー・ウーマンなどの有名なキャラクターたちが老齢でぐったりしている。8月下旬には、歩行器付きでやっと立っていたスーパーマンが補修のため「入院」するというおまけもついた。

ネイティブ・アメリカンに憧れるドイツ人を写したドイツ人作家の作品、ケネディ大統領の暗殺直後の映像をバルカンのバラードに乗せたセルビア人ゾラン・ナスコフスキーのビデオ、南カリフォルニアの庭園にポルノ俳優たちを徘徊させてユートピアとしてのアメリカを示したカナダ人作家のビデオ、1000年後のマンハッタンの摩天楼をカラフルに見せたコンゴ人のインスタレーションなどは、シニカルさはあるにしてもアメリカをポジティブに描いているため、メディア受けがいい。アメリカ人は外国からよく思われないと気分が悪いのだ。

主にヨーロッパの作家たちは、アメリカ社会の消費主義や快楽主義を客観的に、面白おかしく批判するが、過去や現在に軍事的に何らかの関係のあるフィリピン、コロンビア、チリ、韓国、日本などの作家たちは、それぞれの対米関係をストレートにまたは抽象的に表現している。

真珠湾攻撃を彷佛とさせる「不快な作品」

そのなかでも最も目立ったのが、会田誠の「紐育空襲之図」である。室町時代の屏風絵の手法で描かれたこの作品には、インタラクティブな作品や映像作品にしか時間を費やさない、昨今のアート鑑賞者を立ち止まらせるインパクトがあった。

戦争とテロを経験した年配のニューヨーカーには恐怖を喚起させる作品かもしれない。ガイド付きのツアーに参加したある初老の女性は、ガイドの説明が終わった後に「この絵は真珠湾攻撃を思い出させます。どうしてこの作品が掲げられているのか私には理解できません」とガイドに小声で話した。するとガイドも「同感です」と答えていた。この作品は『ニューヨーカー』の美術評では「気分を害された2作品のひとつ」と書かれ、『ニューヨーク』も、日本軍の行為に言及して批判した。いずれも、アートと現実の区別がつかないような論点だが、テロが起こったときに真珠湾攻撃と比較されたことを思い出せば当然の反応とも思える。

この展覧会について、大手や保守メディアは作品の質の低さを第一の理由に批判したが、アメリカの外交政策に異を唱える草の根メディアや若者向けメディアは見にいくことを促した。世界の経済不均衡をテーマにしたクロアチアのアンドレヤ・クランシッチのマルチメディア・インタラクティブ・インスタレーションは、鑑賞者がゲーム感覚で富の分配に関する質問に答えるものだが、若年層の鑑賞者は、積極的にコンピュータの前に座っていた。

年の初めにはイラク戦争への反戦運動が盛り上がったニューヨークである。世界とアメリカの関係を真剣に考えようとするニューヨーカーもたくさんいるからこそ、この展覧会はヒットしたのだと思いたい。

(八巻由利子)

Magazine ALC 2003年11月号より転載

「American Effect」展は2003年7月3日〜10月12日まで
ニューヨークのホイットニー美術館で開催された。

Gilles Barbier 
Nursing Home, 2002 
Photograph by Tim McAfee
Front-page coverage of Zhou Tiehai's Liebertas, Dei Te Servent!
Bodys Isek Kingelez
Detail from New Manhattan City 3021, 2002
Contemporary African Art Collection─
The Pigozzi Collection, Geneva, Switzerland Photograph by Patrick Gries,
courtesy Andre Magnin
会田誠 紐育空爆之図(戦争 Returns)
1996
Courtesy Mizuma Art Gallery