東京ナイト・ブルース

ーー「ロスト・イン・トランスレーション」を見て

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この映画を見たとき最初に思ったのは、すごく高い評価を受けている割にはもの足りない映画だな、ということである。特にエキサイティングでもなく、涙が出るほど笑わせてくれるわけでもなく、感動で胸が熱くなるわけでもない。エンターテイメント性はむしろ低いと思う。しかしそれは私が見なれた東京の風景を見る日本人だからかもしれない。

ストーリーは意外に現実味がある。年配の落ち目の有名俳優とカメラマンの若い妻は、アメリカでは出会うこともなかったような2人である。日本という異国・異文化のなかだからこそ、お互いに「もう一人の自分」を見いだしたのであろう。彼らが映画の中で感じる疎外感は日本に来て始まったものではない。それは日常生活を離れた日本という土地で浮き彫りにされたにすぎない。日本で共に時を過ごすことによって、その疎外感を徐々に受け入れることができるようになったように思う。自分だけではないという安心感もあったのだろう。

ここで描かれる日本は、ハリウッド映画にありがちなサムライ、ゲイシャのステレオタイプではない。むしろ西洋化した今の日本をよく描写している。それでも日本に関心のないアメリカ人にとってはヨーロッパとは一線を画した東洋であり、理解しがたい異国なのだ。知り合いの日本に行ったことのあるアメリカ人は口を揃えてこの映画の主人公たちの気持ちが理解できると話してくれた。その意味では秀作といえるのだろう。(YM)